3.1.事象と確率

$\newcommand{\lnl}{\\[8pt]}$ $\newcommand{\Lnl}{\\[18pt]}$ $\newcommand{\delt}{\mathrm{d}}$ $\newcommand{\comb}{\mathrm{C}}$ $\DeclareMathOperator*{\ssum}{\Sigma}$ $\DeclareMathOperator*{\sprod}{\Pi}$

事象

身近な例で用語の説明をします.
さいころの$1$の目が出ることを単に$1$と表すことにします.
さいころを1回振ったとき出る目をすべて集めた集合$\Omega$は,

\begin{align}
\Omega = \{ 1, 2, 3, 4, 5, 6\}
\end{align}

と表せます.また,奇数の目だけを集めた集合$A$は,
\begin{align}
\Omega = \{ 1, 3, 5\}
\end{align}

と表せます.

さいころを$1$回振って出目を見るというような, 実験・観測のことを試行(Trial)といいます.
$\Omega$のような試行の結果すべてを集めたものを標本空間(Sample Space)または全事象(Certain Event)といい, 集合$A$のように「奇数の目が出る」などの標本空間の集合の部分集合になっているようなものを事象(Event)といいます.
また,事象のうちただ一つの元からなるものを根元事象(Simple Event)といいます.

今後, 集合と事象を区別せずに書くことにします.
(本来は違うものですが, 理論的に厳密にやると本章の範囲を超えてしまいますので)

もう1個別の例をあげます.AさんとBさんがじゃんけんを$1$回する試行を考えます.標本空間$\Omega$と,Aさんが勝つという事象$X$を求めます.

じゃんけんの出し手を「$G$:グー」「$C$:チョキ」「$P$:パー」とし, 根元事象を$(\text{Aさんの出し手}, \text{Bさんの出し手})$のように表すことにします.
このとき$\Omega$と$X$は,

\begin{align}
\Omega &= \{ (G,G) , (G,C) , (G,P) , (C,G) , (C,C) , (C,P) , (P,G) , (P,C) , (P,P) \}\\
X &= \{ (G,C) , (C,P) , (P,G) \}
\end{align}

となります.

同様に確からしい場合の確率

すべての根元事象がまったく等しい程度出ると考えられるとき, つまりどの根元事象が出やすい等の偏りがないときに,これらの根元事象は同様に確からしい(Equally Possible)といいます.

根元事象が同様に確からしい場合,事象$A$の確率$P(A)$は次の式で定義されます.なお、$\Omega$は標本空間で, 集合$X$に含まれる元の個数を$n(X)$と表します.

\begin{align}
P(A) = \frac{n(A)}{n(\Omega)}
\end{align}

例えば,さいころを$1$回振った場合,どの目が出るかは偏りがないと考えられますので,根元事象は同様に確からしいと考えられます.奇数の目がでる事象を$A$とすると,奇数の目が出る確率$P(A)$は,

\begin{align}
P(A) = \frac{n(\{1,3,5\})}{n(\{1,2,3,4,5,6\})} = \frac{3}{6} = \frac{1}{2}
\end{align}

となります.

同様に確からしいというのは人間が設定した仮定です.たとえば現実の世界でさいころを振る際には「さいころの比重の偏りによる出目の偏り」「さいころを振る人のテクニックによる出目のコントロール」など同様に確からしいとは言い難い場合もあります.あくまでも理想状態での仮定の元ということを忘れないでください.

特に条件がなければ同様に確からしいと考えられる試行の例としては,

  • さいころを1回振った際の出目
  • じゃんけんの出し手
  • じゃんけんの勝ち・負け・引き分け
  • 複数枚のトランプから1枚選ぶ時のカードのマークと数字のペア
  • ある人の誕生日(2/29を考えない場合)
  • 子供の性別

などがあります.現実には誕生日は相当の偏りがあることや,性別も男の子が生まれる確率が相対的に高いことが知られています.